聖なる嘘つき

【洋画/1999年】


【あらすじ】

 ナチスドイツ統治下のポーランド、ユダヤを描いた映画。さびれた灰色の街には理不尽な死が蔓延し、外部との情報は遮断されて明日を生きる希望もなく人々はただただ不安の中毎日重労働を課せられている。首吊りから銃殺まで死体は町中にころがっていて、絶望からその後を追う人も尽きなかった。

 そんなある日主人公のジェイコブ(俳優・ロビンウィリアムズ)はドイツ軍本部で偶然ラジオ放送を耳にする。ナチスと敵対するソ連がすぐそばの街まで攻め入ってきている報である。戦争の終結に希望の光を感じながらも、しかしラジオといえば当時は所持しているだけで死刑になる貴重品だった。賢明なジェイコブはラジオから得た情報を周りには話さないようにしようとするが、ヤケになった仲間を救うために思わずそれを漏らしてしまった。

 ジェイコブの話は狭い町中にあっという間に広がり、「あいつはラジオを持っているぞ」とありもしないラジオの話で持ちきりになる。ラジオの話をしてくれ、戦線の状況はどうなんだ、口々に詰め寄られ家まで調べられそうになってジェイコブはまったく困った。収容所に連行される途中で逃げ出した少女を屋根裏にかくまっていたからだ。

   自分の言葉のために死んでしまった仲間、反対に自分の言葉があったからこそ生きる希望を得た人々、ラジオ放送をでっちあげたために笑顔になってくれた屋根裏の少女。幻のラジオの嘘をつき続けるべきか真相を打ち明けるべきか、苦悩するジェイコブの姿に考えさせられ、またあるときは笑い、そして最後にはどこかさっぱりした気分になる作品である。


【感想】

 このテーマの作品にしては暗すぎないところがまず見やすいと感じた。ナチスとユダヤを描いた話はやはり重苦しくなりがちだが、ところどころにユーモアや皮肉が挟まれるためこの映画はそれがない。

 民衆の労働の背景にかかる音楽は特に象徴的である。ナチスが労働意欲向上のため、現場で音楽隊をつかっていたことはこの映画を観て初めて知った。土ぼこりの中で重たい布袋を運ばされるシーンではまるで運動会のように軽快で忙しい音楽がテンポよく響いていて、つらく厳しい生活の中でもなんとかその日を生きる人々の強さが感じられる。

 音楽の印象的な使い方が上手な映画である。物語の中盤で屋根裏の少女とジェイコブがレコードにあわせてダンスをする場面があり、暗く落ち着いたBGMが続く中でそこだけは明るい社交場のような歌がかかる。明日が見えない絶望の中でも希望を捨てないことの素晴らしさを思わされた。身長が半分ほどしかない少女を自分の靴の上にのせて踊ってやるジェイコブの茶目っ気ややさしさがよい。

 主演のロビンウィリアムズの演技がすごかった。(こなみかん)少女のためにその場でラジオをでっちあげるシーンで、キッチンのボウルを使って声色を変えたり、ラジオに登場する人物をその都度演じ分けたりする。(コメディアン出身?だけに)コミカルな仕草がとてもユニークで、もちろんそうでない演技もすばらひい。派手な表情ではないと思うのに顔の皺の動きひとつひとつからジェイコブの葛藤が静かに伝わってくる。最後の決断とその表情もまたよかった。

 「たかがラジオひとつ」で町全体がこんなことになるなんて、この作品を見るまでは想像もつかなかった。当時のポーランドの生活が克明に描かれており、その歴史を学ぶ機会になったと思う。悲しみや苦しみの中でも希望を捨てずに生きていく人々の姿に感動した。


【余談】

ロビンウィリアムズめちゃめちゃよかった〜〜〜他の作品も観てみたい。今まで観た中だとレナードの朝とミセスダウトがよかった。グッドウィルハンティングはなんかあまりピンときてない。グッドモーニングベトナム絶対好きそう。フィッシャーキングも気になる。